【1月1日付】鳥取市でリノベーションまちづくり講演会 人間中心の都市をつくろう

 鳥取市で12月5日、リノベーションまちづくり講演会が開かれ、建築家で北九州家守舎の島田洋平代表が講演しました。


 島田氏は、都市・地域経営の本来の姿に戻り、人間中心の都市をつくることが大事だと訴えました。


 まちづくりを補助金で回すのではなく、民間が稼いで税金を納め、公共サービスが提供されるというサイクルに戻すことが自然のあり方だとのべました。


 補助金で回そうとすると、事業者が自立する力を失い、補助金が切れると事業が終了し、前にすすまないと指摘しました。


 さらに、補助金を受けた事業で儲けることはできないとされ、次に続かないとのべ、制度融資や地元の金融機関を利用して商売として成り立つことが大事だと強調しました。


 これまでは、人口が増え経済が成長し、どんどん供給すれば売れたが、2010年をピークに人口減少社会に転じ、経済が右肩上がりの時代に通用したやり方が破綻しているとのべました。


 人口減少、経済縮小し、財政縮小の地方都市では、右肩下がりの時代にふさわしいやり方があると話しました。


 ピーク時には年間190万戸あった住宅(戸建て)の新築が、80万戸まで減少し、空き家が増えているとのべました。


 空き家、空き店舗、空きビルが増えているということは、供給過剰になっているということであり、使われなくなった建物を壊して新築するという従来のやり方では、供給を増やすだけで〝空き家問題〟や〝地域の再生〟は解決しないと指摘しました。


 〝空き家〟という空間資源のストックがあり余っているということであり、これらの遊休不動産の有効活用こそ求められており、壊して建てる再開発、集客施設をつくって活性化しようとする試みは失敗するとのべました。


 今あるストック(空き屋、空き店舗、空きビル)を活用して使い方を変えて(改築しなくても用途変更するのもリノベーション)、雇用と産業を生み出し、エイリアの価値を高めることが大事だとのべました。


 今ある1742の自治体のうち、896自治体は自主財源で義務的経費を賄えず、補助金を積み立てた基金の取り崩しができないとすれば、1200自治体、全体の3分の2の自治体が自立できず、国の交付税や補助金に頼っていると紹介しました。


 自主財源(住民税や固定資産税、地方消費税、法人住民税など)は、少子高齢化、生産年齢人口の減少と流出、人口の減少、子育て世代の流出、地場産業の衰退などで縮小し、地方交付税も縮小していくとのべました。


 地方は、自主財源が年々減少し、中心市街地の衰退、商店街の衰退、遊休不動産の増大など、地域経済の疲弊とコミュニティーの崩壊がすすみ、一方で医療、介護、生活保護などの社会保障費は増大し、公共施設の更新経費は増大し、義務的経費は年々増え、財政破綻に直面していると指摘しました。


 支出は増え、収入は減るなかで、都市・地域経営のあり方をどう変えるのかと問題提起し、リノベーションまちづくりを提唱しました。


 行政主導型から民間(不動産オーナー、民間自立型まちづくり会社=家守〈※〉、ビジネスオーナー、市民など)主導に切り替えて、行政は支援に徹し、空間資源と潜在資源を結び付けて、経済合理性の高いプロジェクトを起し、地域を活性化することが大事だとのべました。
 ※ 家守は、不動産オーナーから物件を賃料(5年間分とか)を払って借りて改修し、ビジネスオーナーから月々、家賃と改修費をもらう。


 従来のやり方で作った「まちづくりのマスタープラン」は、〝絵に描いたもち〟になり、構想と実現の間に大きな断絶があると指摘しました。


 それは、メンバーが発言に責任のないお客様市民、評論だけで行動しない学者、補助金でやる事業者などで構成され、行動しない人がつくったプランだからだとして、「志のある不動産オーナー、家守、やる気のある行動する学者、自立し成熟した事業者、市民など、行動する人がメンバーとなってプランをつくることが大事だ」と強調しました。


 さらに、従来のプランは実現するプロセスもゴール(何のためにするか目標)の設定もないと批判。リノベーションスクールを開き、不動産オーナーと事業者、家守、市民が実在の物件のリノベーションプロジェクト(事業計画)をつくり出し、目標(解決の必要な課題、プロジェクト、新規雇用者、新規起業者、歩行者、定住人口、民間投資の増加、路線価上昇など)を設定し、プロジェクトを動かすことが必要だとのべました。


 行政は、リノベーションまちづくりを担う人材を育て、ネットワーク化するためのリノベーションスクールを開き、最初のプロジェクトを実現するまでが仕事で、あとは民間に任せることだと話しました。(つづく)

 北九州家守舎の島田洋平代表は、不動産オーナーから物件を借りてリノベーションしてビジネスオーナー貸すリノベーションまちづくりが大事だと話しました。(前回号)


 歩いて5分程度で回れるスモールエリアがまちづくりの単位だとのべました。それは、エリアごとに個別の課題、商店街のビジョンが異なるからです。


 やり方について、既存の建物を暫定的に活用(たとえば5年間)▽エリアのコンテンツをつくり(魅力ある店など)▽エリアの価値(路線価など)を上げながら▽床のニーズ(出店希望)をどんどん上げることだとのべ、その時点で初めて再開発(建て替え)が可能になると指摘しました。


 北九州市は、八幡製鉄所を中心に製鉄、造船、石炭の町として栄えました。八幡製鉄所の労働者7万人は2800人に減り(新日鐵住友と合併しても4200人)、最盛期に107万人近くあった人口は、95万人を切ろうとしています。


 小倉魚町は地価が4分の1に下がり、固定資産税が激減(魅力ある店が減り、回遊人口が減った)。北九州市は、商店街が閑散としたこの地域を対象に、2011年から島田氏が関わってリノベーションスクールを始めました。


 「ある不動産オーナーは空きビルを改装し、10人のクリエーターに売り上げの10%を利用料として払うことを条件に貸しました。1坪当たり4500円(10坪だと月の売り上げが45万円)に相当しました。当時の貸店舗の相場は坪当たり7、8千円でした。


 ビジネスオーナーは、チャレンジショップ、直販店、惣菜屋、カフェなどでした。今ではビル1階は1坪当たり1万5千円、雑貨屋は9千円の利用料が入っています」と、エリアの価値が上がっていると紹介しました。


 民間まちづくり会社を立ち上げ、道路のリノベーションにも挑戦しました。商店街の道路はアーケードを撤去した後、人が憩う緑豊かな公園空間に生まれ変わりました。まちづくり会社は、道路の管理を請け負い、イベント等に貸して利益を得ています。
 緑の道路の一角にコンテナを設置し、店を出していましたが、ビルを建てる計画を発表したところ、22件の応募があったとのべました。


 リノベーションまちづくりで新規雇用は3割増の445人になったと紹介。「小さな変化は伝搬し、小さな変化を起こし続けることで町が変わる」と強調しました。


 次に和歌山市のぶらくり丁商店街のリノベーションまちづくりを紹介しました。


 ぶらくり丁では、新たなプロジェクトが次々と生まれ、実現しているとのべました。
 有機農家が石窯で焼くピザの店を出したり、堀川沿いに地酒を出す日本酒バーの店やゲストハウスができました。


 小中一貫校ができ、教育熱心な母親たちが集まり、空きビルに幼児向けの英語教室が入りました。


 これまでのまちづくり、地域活性化は「不動産オーナー、家守舎、ビジネスオーナーのゲリラ的アクションに支えられてきました。しかし、これからはまちづくりの全体像が必要になってきます」とのべました。


 「街中は空き家だらけになっていますが、魅力あるコンテンツがあれば、人は来ます」と強調。例としてイオンモールやディズニーランドを挙げました。


 イオンモールは一カ所に大きな駐車場があって商店街になり、ディズニーランドは魅力的なコンテンツがつまっているとのべました。


 一方で、ぶらくり丁はパーキングだらけで(市職員の契約が多い)、市営駐車場もあり、車の往来が激しく、歩行者が歩きにくいと指摘しました。


 ぶらくり丁は教育への公共投資(図書館、市民センター、その他に大学の誘致など)とともに、質の高い教育機会と子育て環境の創出のために空間資源を活用していると強調。都市型の産業を興し、民間教育産業の投資を促し、「住みたいまち」「子育てをしたいまち」として質の高い雇用者が住む街にして、中心市街地の活性化をすすめているとのべました。


 「既存の地下駐車場を利用して市役所までの朝夕のバスの往復便を出し、市営駐車場を公園にして、パーキングを緑地、農地、菜園にリノベーションして、歩行者のためのまちをめざしています。環境客はこの5、6年で飛躍的に伸びています」と報告しました。


 最後に、市民が幸せに暮らし続けられる町であるために、持続可能な自治体経営(補助金や交付金で国に依存しない)が重要だと強調しました。


 「公共施設が更新時期を迎えていて、施設の3割削減の話がよく出ます。しかし、住民合意が得られる保証はなく、現実的ではありません。公共施設をうまくリノベーションして活用し(道路を緑化・公園化して活用など。また、街並みが観光資源になる)、民間が稼げて、税収が増えて、市民サービスが向上するような自治体経営こそ大事です」と語りました。