【6月17日付】鳥取環境大学でエコサポーターズ養成講座 水素エネルギー社会への移行

 鳥取環境大学は2日、とっとりエコサポーターズ養成講座を開き、田島正喜教授が地球温暖化と水素エネルギー社会への期待について講演しました。


 田島氏はパリ協定は、▽産業革命前からの地球の気温上昇を2度未満に保つ▽そのために21世紀後半に世界の温室効果ガス排出を実質ゼロにする▽各国が削減目標を設定する。日本は2030年までに2013年度比で26%の削減(EUは2030年までに少なくとも1990年比で40%削減)―を決めたと指摘しました。


 気温が4度以上上げれば、▽熱波、洪水、干ばつによる罹病率と死亡率が増加▽最大で32億人が水不足に見舞われる▽40%以上の種が絶滅する▽生産できる穀物が減少する▽栄養失調、下痢、呼吸器疾患、感染症による社会的負荷、医療費が増加する―と国立環境研究所の所見を紹介しました。


 世界的なエネルギーシフトについて、石炭が減産し、石油が90年代にオイルピークを迎えて減産し、2010年代には天然ガスが石油を超して右肩上がりになったと報告し、天然ガスと水素の時代が来ているとのべました。


 水素は1立法㍍当たりの発熱量が少ないが、1㌔㌘当たりの発熱量は群を抜いて多いとして、液体にするか圧縮して使うのが効率的だとのべました。(※1)


 ※1 一般的に350分の1に圧縮したものを使用。700分の1に圧縮も可能。液体にすると800分の1に縮小するが、マイナス253度以下に保つ必要がある。有機ハイドライド(トルエン)と反応させてメチルシクロヘキサンにすれば、常温で500分の1に圧縮可能で、輸送先で水素とトルエンに分離して使用する。


 水素の製造は、化石燃料やバイオマスから取り出すほか、再生可能エネルギーで発電した電力で水を電気分解して得られるとのべました。


 燃料電池の仕組みを、空気極でO2+4H(+)+4e(-)→2H2O、燃料極で2H2→4H(+)+4e(-)の反応が起こり、燃料極から空気極に電子が流れると説明しました。


 自動車のCO2排出量は、燃料の生産過程では少なく、ほとんどが走行中だとのべました。電気自動車は走行中には出さず、発電中にCO2を排出し、発電方法で量が変わるとのべました。火力発電をした場合は、CO2排出量はガソリン車の70%で、プラグインハイブリッド車の方が55%と少ないと指摘しました。


 一方で、燃料電池車のCO2排出量は、石炭から水素を取り出す場合はガソリン車の65%、石油だと50%(水素製造時にCO2を回収した場合は12%)、天然ガスだと40%、バイオマスだと10%、水の電気分解だと3%だと紹介しました。


 自動車への燃料電池車の導入で、現在のガソリン車、ディーゼル車を置き換えるとCO2を50%削減でき、さらにCCS(二酸化炭素を回収、貯蔵する)を採用し、再生可能エネルギーで水素を製造する低炭素型にすれば、80%削減できると指摘しました。


 水素社会への移行について、水素ステーション(水素を製造し供給する)を核とした水素コミュニティーを想定しました。天然ガス(LNG)パイプラインでLNG基地と工場や水素スタンドをむすび、各施設において水素製造器でLNGから水素をつくり、燃料電池で発電▽一方で水素ステーションから水素パイプラインで水素スタンド、工場、家庭、集合住宅、業務用ビルに水素を供給し、各施設で発電―の2系統で経済活動のエネルギーを賄う構想です。


 全国には約1900カ所の下水処理場があり、そのうちの約300カ所(16%)が消化層を備えて下水汚泥のメタン発酵(※2)を行っており、発生した消化ガス(メタンガス)の70%が汚泥の乾燥や焼却の燃料として利用され、30%の消化ガスが捨てられていると指摘。30%の消化ガスを水素の製造に利用できれば、自動車全体の4000万台のうち150~200万台分の燃料が賄えると強調しました。


 自らが係わる福岡水素ステーションの実証実験を紹介。メタンから水素を製造したときに分離したCO2を回収してハウスレタスの栽培に利用しているとのべました。また、分離したCO2を海底地下の滞水層に圧入する実験が行われていることを紹介しました。


 メタンからの水素の製造は、CH4+2H2O→4H2+CO2-Q(Qは熱量。逆も可)です。燃焼でのCO2回収は困難だが、水素製造過程でのCO2回収は簡単だとのべました。


 ※2 【アルコール発酵】酵母が糖を分解。酵母はセルロースやデンプンを分解できないので、前処理として(コウジカビなどの)酵素アミラーゼでデンプンを分解、酵素セルラーゼでセルロースを分解する【メタン発酵】酵素の力でタンパク質→アミノ酸、炭水化物→糖類、脂質→糖類、長鎖脂肪酸に分解。アルコールや有機酸、アンモニアや短鎖脂肪酸に微生物や酵素がさらに分解。メタン菌が酢酸をメタンに分解(70%)、または、二酸化炭素と水素からメタンを合成(30%)【メタノールの合成】バイオマスを燃焼炉で熱分解し、水蒸気と反応させると水素とCO、CO2の合成ガスが発生。合成ガスを加圧、加熱して触媒層(銅酸化亜鉛系など)を通すと、CO+2H2→CH3OH+Q、CO2+3H2→CH3OH+H2Oの反応が起こり、メタノールが合成される。