【11月10日付】再び社会の中へ

斉藤教授は続けます。


 ひきこもりの本人や家族が支援者とつながり、本人が〝新たな自分に出会う〟段階では、元気になって家のことや親の手伝いなどを始め、「このままじゃいけない」「変わりたい」と思えるようになります。


「20歳過ぎた辺りから、あんたの人生だから好きにしていいよみたいな感覚になっていて、家の中いること自体は楽になりました。


 そうすると、家のことをやろうという気になり…夕食を家族のために作りました。…
 ゆっくりできたので、いろいろ本も読んだし、自分のことを客観視することができるようになりました。…


 自分の歳を考えても、このままじゃいけないと、本気で思ったし、でもどうしていいかわからないし…。ただ、変わりたいと思えるようになりました」(ある経験者)


 しかし、ずっとひきこもっていると外に出るのが怖くなります。


 「地域のために何かできるならやりたいけど、何をしていいか全くわからない。他人の視線は死ぬほど怖くて、外を歩いていても、とても罪悪感で、気が狂いそうな事が多い」という事例もあります。


 2012年のKHJ全国ひきこもり家族会連合会調査では、本人はほとんど就職活動をしていませんでした。


 自分の夢を実現させる仕事に就きたいと思いながら、▽ひきこもり期間の空白が埋まらない▽ひきこもっていた時の説明が難しい▽人とうまく話せない―と就労に至るまでの難しさがあり、「遠くを見てあきらめている」状態です。


 斉藤教授は、回復までには段階があると言います。


 それため、①家族は本人の発する言動に惑わされない②家族の批判と叱咤激励は遷延化する(長引く)大きな要因になる③家族との温かいコミュニケーションは強い力になる④家の中で小さな自信の積み重ねが行われる。家族の一員としての役割、資格取得、外部の人との出会いなど⑤対人関係は緊張と恐怖を伴っている⑥本人の多くはあきらめていない―ことを見ておく必要があります。


 経験者から家族に伝えたいことは、▽プレッシャーは子どもに辛いだけ。ひきこもり当初は何も考えられない。将来のことを言われても困る▽今できることを一緒に探して。趣味やペットなど日常生活を一緒に楽しんでほしい(そんな時間がとても重要)▽第一歩を踏み出すときは誰かが一緒だと心強い。居場所には最初親が連れてきてくれた▽ずっと自分を責め続けていた。反抗もしたが、母親が人から育て方が悪いと言われるのが辛かった▽精神科受診を敬遠しないで。親が抵抗したため、自分で探して受診した。うつ病の治療で仕事に行けるようになった―などです。